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SOHO翻訳者の仕事部屋

SOHO翻訳者の仕事部屋

翻訳の勉強をはじめる前に…

翻訳に必要なのは英語力?、専門知識?、それとも…?

翻訳家になりたい!という人は、一体、何からはじめたらいいのでしょうか?

世の中には、規模も内容も受講料も違う翻訳講座がたくさんありますね。
「どこの学校へ行ったらいいんだろう」という方も、
「私は独学でコツコツやっていく」という方も、
ちょっと待ってください。

いわゆる翻訳の勉強をはじめる前に、
ぜひやっておいていただきたいことがあります。

そのひとつは、


自分の母語(日本語)を疑ってみることです。

残念ながら、実際に翻訳業という言葉を使う仕事をしていながら、
言葉に無頓着な方や、
自分の日本語に問題があるかどうかなんて、もとから考えてない方が、
あまりにも多いのが現状です。

翻訳の仕事をされている方のなかには、言葉に敏感な方も多いでしょうから、
町を歩いていて、あるいは本を読んでいて、
「こんな日本語はないだろう」と思うことも多いでしょうし、
翻訳本を読んで、
「こんな現状を変えたい」とすら思ってらっしゃる方も多いでしょうが、
そういう方の訳した日本語がおかしい
という現実に何度も遭遇しています。

つまり、翻訳業界という視点からみると、何ともレベルの低い話ですが、
問題のない日本語が書けるという、
日本語ネイティブとして当たり前のことができるだけで、
同じ知識量のほかの翻訳者に大きく差を付けることができます。

学校の国語の教科書に引用されるような、魅せる文章、効果を狙った文章ではありません。

自然な日本語、
普通の日本語を当たり前に書けること
が、
一番大切なのです。

次に、日常生活のなかの日本語をことごとく意識化します。

目や耳に入ってくる言葉、自分が発する言葉、
意味がわかるから、何気なく流してしまっているかもしれませんが、
そういった言葉を逐一吟味していくのです。

世の中には、正しい言葉も間違った言葉も入り乱れています。
そのなかで正しいものは正しい、間違っているものはどう改めればよいか、
正しい、間違っていると思うもののなかにも、
自分に誤った思い込みがないかどうか、常に考えます。
(特に最近、言葉同士のつながり、言葉のTPOが軽視されているように感じます)


言葉のプロになろうとしているんですから、
これぐらいのことはやっておいて当然のことではないかと思うんです。

「そんなしんどいこと…」
「日本語は放っておいてもできるんだから、
英語(外国語)や専門知識の勉強に力を入れるべきじゃないの?」と思った方、

人に迷惑をかけないためにも、翻訳の仕事はどうぞあきらめてください。


また、「私は英訳をやりたいから、関係ない」と思うのも間違いです。
答えはもうおわかりですよね。
翻訳元言語(日本語)を明確に理解できなければ、
いくら英語に問題がなくても、正確な翻訳にはならないからです。

たとえば、海外誌に投稿するため、
日本語で書かれた論文を英訳するという仕事がたくさんありますが、
その著者は、
医学なら医学、技術なら技術の当該分野の専門家ではあっても、
日本語の専門家ではありません

同じ専門家同士なら「なんとなく」わかっても、
明晰とはとても言えない日本語があふれかえっているのが現状です。

本来なら、医師や研究者など、
知的レベルの高い方にまず、きちんとした日本語を書いていただくべきなのですが、
ここではその話をとりあえず不問にするとして、
そのように、ある意味拙い言葉から、
著者の言わんとしていることをできるだけ正確に捉えるには、
翻訳者自身が、日本語の基礎をきちんと身に付けていなければないのは、
もうお分かりいただけるでしょう。
専門知識で補うとはバックグラウンドのある方の常套句ですが、
これは、言葉の問題を全部解決した上で行うことだと思っています。
翻訳とは、原文で表現された情報を別の言語で過不足なく表現することであって、
原文から翻訳者自身が読み取った解釈を訳文に反映させることではないからです。


ではなぜ、日本語の問題を
「翻訳の勉強をはじめる前に」解決しておかなければならないのでしょうか。

翻訳の勉強をするなかで、専門知識を習得するには、
専門書等に目を通すことになります。

すでに書いたように、たとえば医師は、
医学のある分野の専門家ではあっても、言葉の専門家ではありません。

世間に出回っている専門書に書かれた日本語が、いい日本語であるとは限りません。
むしろ、鵜呑みにしたら、あとで大変なことになるものもたくさんあります。
特に、知識のない分野に関する専門書を読むと、
専門用語も含め、いままで見たことのなかった言葉がたくさん出てくると思います。
そんなとき、日本語として正しい、正しくないの判断がつかないと、
そういった言葉が、その分野の慣用であるのか、
単におかしいだけなのかの区別がつきませんし、
内容の理解も妨げられることになります。

それから最後に、大切なことを書き忘れておりましたが、
日本語の問題がまず解決できていないと、
翻訳に不可欠な情報量理論を正しく身に付けることはできません。
すでに情報量理論の講座を何度も受けながら伸びない方の多くは
やはり日本語でつまずいているようです。



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